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マンション管理の文章術

<連載第12回>

実践編(4)共有持分の単独処分禁止を補足する

2013/4/9

マンションの専有部分と共用部分とは、法律や規約により概念上は区分できても、建物の構造上は一体のものであり分離することは不可能です。

このため、区分所有法では共用部分の持分のみを分離処分することを禁止する強行規定(区分所有法の定めに従い、規約等で変更しても無効となる規定)を設け、標準管理規約でも法に基づき共用部分等の分割請求や単独処分を禁止する条項を置いています。

こうした、強行規定がある場合の規約改正は、上位規定の趣旨をよく理解したうえで条文を記述しなければなりません。

団地型標準規約の変更

Aマンションでは、管理規約第11条(分割請求及び単独処分の禁止)が、分譲時の原始規約で次のように変更されていました(下線は変更部分)。

【標準】
第11条 団地建物所有者又は区分所有者は、土地又は共用部分等の分割を請求することはできない。
2 区分所有者は、専有部分と敷地及び共用部分等の共有持分とを分離して譲渡、抵当権の設定等の処分をしてはならない。

  ↓

【変更後】
第11条 団地建物所有者は、敷地又は団地共用部分又は棟別共用部分又は付属施設の分割を請求することはできない。
2 団地建物所有者は、専有部分を他の団地建物所有者又は第三者に貸与する場合を除き、専有部分と敷地、団地共用部分、棟別共用部分及び付属施設の共有持分とを分離して譲渡、貸与、抵当権の設定等の処分をしてはならない。

Aマンションは団地型マンションなので、話はやや複雑になります。ここでいう標準規約は「マンション標準管理規約(団地型)」を指します。

まず、この変更例では、第1項の「団地建物所有者又は区分所有者」という主語から「区分所有者」を削除しています。単棟型標準規約の定義規定(第2条第2号)では、「区分所有者」を「区分所有法第2条第2項の区分所有者をいう」と[注1]、また団地型標準規約(第2条第7号)では「団地建物所有者」を「区分所有法第65条の団地建物所有者をいう。」と[注2]、それぞれの用語を定義しています。これは、団地には区分所有建物と戸建てが混在するような場合もあり、団地全体の土地や付属施設等を共有する所有者が必ずしも「区分所有者」であるとは限らないため、「団地建物所有者」という用語で区別しているのです。

また、団地型標準規約にある「土地」という表現を、単棟型標準規約等でなじみのある「敷地」と言い換えています。単棟型標準規約の定義規定(第2条第5号)では、「敷地」を「区分所有法第2条第5項の建物の敷地をいう」と[注1]、また団地型標準規約(第2条第7号)では「土地」を「区分所有法第65条の土地をいう」と[注2]、それぞれの用語を定義しています。つまり、団地の場合、区分所有建物が所在する土地だけでなく、附属施設(例えば管理事務所や集会所など)が所在する土地も共有の対象となることがあるため、あえて「敷地」ではなく「土地」という用語を使用しているのです。

Aマンションには、団地共用部分となる(区分所有権の対象とはならない)管理事務所・集会室等として使用する共用棟はありますが、区分所有関係のない建物(戸建て住宅等)はありません。

よって、条文の主語となる「団地建物所有者又は区分所有者」を変更するとしたら、「団地建物所有者」を削除することは考えられても、「区分所有者」を削除することは不適当といえます。

「土地」を「敷地」とする言い換えについても、なじみのある言葉に変更するという趣旨は理解できるものの、用語の正確さを考慮すると「土地」のほうが適しています。ちなみに、Aマンション管理規約の定義規定では、団地型標準規約に倣い、第2条第7項で「土地」の定義を掲げ、「敷地」の定義は掲げていません。このことからも、第11条であえて「土地」を「敷地」と言い換える必然性は低いといえるでしょう。

次に、第2項では「専有部分を他の団地建物所有者又は第三者に貸与する場合を除き」という例外規定を追加しています。この例外を追加した条文をそのまま読むと、原則として専有部分(住戸)と共有持分(例えば敷地の1万分の40の持分)を分離しすることはできないが、住戸を賃貸に出すような場合には、例外として分離する(例えば共有持分のみを担保として借金する)ことができることになってしまいます。

たとえこのような規定を規約で定めても、区分所有法第15条に強行規定があるため法律が優先され、規約による別段の定めは認められません[注3]。もし持分に限った処分を認めると、共用部分に対する持分のない区分所有者が出現したり、専有部分を有しない第三者が区分所有関係に入ってくる可能性があり、建物の管理上の不都合が生じるからです。

もっとも、この条文変更の趣旨は察しがつきます。団地型標準規約コメント(第11条関係)には、「専有部分を他の団地建物所有者又は第三者に貸与することは、本条の禁止に当たらない」とあり、おそらくこのことを条文に追加したかったのだと思われます。

以上の誤解やまちがいを正した改善例は次のとおりです。

【改善例】
第11条 区分所有者は、土地、団地共用部分、棟別共用部分又は付属施設の分割を請求することはできない。
2 区分所有者は、専有部分と敷地、団地共用部分、棟別共用部分及び付属施設の共有持分とを分離して譲渡、抵当権の設定等の処分をしてはならない。ただし、専有部分を他の区分所有者又は第三者に貸与することは、本項の禁止に当たらないものとする。

原始規約を作成する分譲会社や管理会社の能力が低いと、このような不正確な条文により区分所有者および居住者が強い拘束を受けることになります。マンションの専門業者が作った規約だからと安心せず、いちどは自分の目でしっかりと読んでみることが必要といえるでしょう。

(マンョン管理士/波形昭彦)



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注釈 NOTE

注1: 区分所有法第2条の全文および第5条第1項は次のとおり。
 (定義)
第二条  この法律において「区分所有権」とは、前条に規定する建物の部分(第四条第二項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権をいう。
2  この法律において「区分所有者」とは、区分所有権を有する者をいう。
3  この法律において「専有部分」とは、区分所有権の目的たる建物の部分をいう。
4  この法律において「共用部分」とは、専有部分以外の建物の部分、専有部分に属しない建物の附属物及び第四条第二項の規定により共用部分とされた附属の建物をいう。
5  この法律において「建物の敷地」とは、建物が所在する土地及び第五条第一項の規定により建物の敷地とされた土地をいう。
6  この法律において「敷地利用権」とは、専有部分を所有するための建物の敷地に関する権利をいう。
 (規約による建物の敷地)
第五条  区分所有者が建物及び建物が所在する土地と一体として管理又は使用をする庭、通路その他の土地は、規約により建物の敷地とすることができる。
(第2項略)

注2: 区分所有法第65条の全文は次のとおり。
 (団地建物所有者の団体)
第六十五条  一団地内に数棟の建物があつて、その団地内の土地又は附属施設(これらに関する権利を含む。)がそれらの建物の所有者(専有部分のある建物にあつては、区分所有者)の共有に属する場合には、それらの所有者(以下「団地建物所有者」という。)は、全員で、その団地内の土地、附属施設及び専有部分のある建物の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。

注3: 区分所有法第15条の全文は次のとおり。
 (共用部分の持分の処分)
第十五条  共有者の持分は、その有する専有部分の処分に従う。
2  共有者は、この法律に別段の定めがある場合を除いて、その有する専有部分と分離して持分を処分することができない。
 なお、ここでいう「別段の定めがある場合」とは、@規約により特定の区分所有者または管理者を共用部分の所有者とした場合と、A規約の設定または変更により持分割合を変更した場合を指し、これらの場合は「分離処分の禁止」にあたらないとするもの。規約による別段の定めにより分離処分が認められるという意味ではない。

筆者紹介 PROFILE

波形昭彦(なみかた・あきひこ)

マンション管理士。ぎょうせい、日経BP社、Time Inc. を経て、合資会社妙典企画を設立し代表に就任。首都圏マンション管理士会の本部広報委員、千葉県支部事務局長、市川市マンション管理組合連絡協議会事務局長などを歴任。現在、首都圏マンション管理士会城東支部・台東区マンション管理士会正会員。地域コミュニティの活性化を支援するコミュニティアドバイザーとして、ICT活用や電子自治体、コミュニティ形成関連の執筆・講演多数。著書に『あなたのマンションは狙われている!――安全・安心な暮らしのための防犯読本』(共著、同友館)ほか。