本文へスキップ

マンション管理オンラインはマンション居住者と管理組合の視点に立った実務情報を提供する専門サイトです。

マンション管理の文章術

<連載第9回>

実践編(1)管理規約の目的規定を修正・変更する

2013/2/5

これまでの連載で8回にわたり、管理規約の条文を正しく理解するためのコツともいえる、最低限必要な法制執務の知識についてみてきました。

マンション分譲時に売主等があらかじめ作成したいわゆる「原始規約」は、ほとんどが「標準管理規約」[注1]を参考としたうえで、戸数規模や居住形態、固有の設備・施設など各マンションの実状に応じた書き換えが行なわれています。

また、管理規約には改正がつきものです。設備や施設、居住者向けサービスの追加導入または廃止のほか、標準管理規約の改正などがあれば、条項の加除訂正等が必要となるでしょう。規約が実状に合っていなければ、区分所有者と居住者が納得し、きちんと守ることができるような規約への変更を検討しなければなりません。

毎年のように規約を改正するというのは考えものですが、適当な時期をみて規約の見直しを行い、規約の最新版を冊子として再配布することは、ふだん規約をはじめとする生活上のルールに無関心な居住者の注意を喚起するうえでも有効です。

今回からは、実践編として、標準管理規約の書き換えや現行規約の一部改正を行う場合の注意点を具体例とともにみていきます。

一つの段落(項)の中では改行しない

1985年完成のAマンションでは、自主管理に基づき独自に作成した規約を長年にわたり使用してきましたが、新・標準が公表されたあと、これを参考として規約の全部改正を行いました。ただし、改正前の条文に住民が慣れ親しんでいることに配慮し、そのまま流用できる文言があればできるだけ生かす方針としました。

この方針に基づき、規約冒頭を次のように改正しました。

【改正前】
「Aマンション管理組合規約」
 (前文)
 Aマンション、その敷地及び付属施設の管理又は使用について、「建物の区分所有等に関する法律」に基づき区分所有者相互間の事項につき、次のとおり規約を定める。
 (名称)
第1条 本組合は、Aマンション管理組合と称する。
 (※以下略)
  ↓

【改正後】
「Aマンション管理組合規約」
 (※前文は削除)
 (目的)
第1条 Aマンションの各専有部分を所有する区分所有者は、付表に表示する建物・敷地及び付属施設等の管理並びに使用に関する諸事項について、次のとおり「Aマンション管理組合規約」(以下「規約」という。)を定める。
 本規約は「建物の区分所有等に関する法律」第30条の規定に基づき制定され、各区分所有者間の共同生活の円滑な運営を図り、良好な住環境を維持し、共同の利益を増進することを目的とする。

改正前の条文をできるだけ生かし、前文と目的規定をあわせて改正第1条としたことは評価できます。しかし、文章が長くなったため二つに分け、途中で改行したのは失敗でした。

連載第3回でみたとおり、条文の段落は「項」と呼び、改行した次の段落は項番号の有無にかかわらず第2項として扱われます。ただし、上の例では、二つの段落(項)は独立した別の内容ではなく、両方あわせて一つの内容(目的)を規定しているので、そもそも途中で新たに項を立てることは不適切です。

前文と旧第1条の重複を避け、省略可能な文言を省いたうえで、一つの段落(項)にまとめ直すと次のようになります。

【改善例】
 (目的)
第1条 この規約は、「建物の区分所有等に関する法律」第30条の規定に基づき、Aマンションの各専有部分を所有する区分所有者による建物・敷地及び付属施設等の管理又は使用に関する事項等について定めることにより、区分所有者の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保するとともに、区分所有者相互間の共同生活の円滑な運営を図ることを目的とする。
規約の冒頭に前文があってもいい

現在では、標準管理規約に倣い、規約には特に前文を置かないことが前提とされがちです。しかし、上記の例のように、根拠規定[注2]が区分所有法であることを前文で明記するスタイルは、かつて多くのマンションで採用されていました。[注3

また、1983年の区分所有法大改正より前に完成したマンションでは管理組合がなく、自主的に設立されたマンション自治会などの自治組織がいまでいう組合業務を担うこともめずらしくありませんでした。こうした自治組織の発足にあたっては、設立趣旨や方針・方向性、活動目的などが熱心に議論され、その成果が会則・規約の前文や目的規定に高らかにうたわれている場合が少なくありません。

こうしたマンションの歴史を刻むような前文がある場合には、削除する必要がないどころか、むしろ積極的に残す方向で検討すべきでしょう。

Bマンションでは、原始規約に置かれていた前文をその後も踏襲するだけでなく、次のようにその後行なわれた規約改正の履歴と趣旨を前文で記録する追加・増補方式を採用しています。

「Bマンション管理規約」
 (前文)
 本規約は「建物の区分所有等に関する法律」に基づき、Bマンションの敷地並びに建物の共用部分及び共用施設の共同使用並びに維持管理について、建物の区分所有者全員の合意により定められたものである。
               (○○年○月○日制定)
 この規約改正は、「区分所有法」が大幅に改正されたことに伴い、組合員である区分所有者の権利・義務及び管理組合の権限と責務を明らかにするため行なうものである。
               (○○年○月○日改正)
 近年の「適正化法」「円滑化法」の制定、「区分所有法」の改正などマンションに関する法制度の充実を背景とし、国土交通省から新「標準管理規約」が公表された。これらの時代背景に基づき、当マンションを取り巻く情勢の変化に伴う見直しを含め、管理規約の一部改正と整備を行うものである。
               (○○年○月○日改正)

法律や条例の改正履歴は、附則に追加されていく公布日・施行日に関する規定をみれば把握できます。しかし、連載第8回でみたとおり、法令の附則は省略されることが多く、改正履歴を記録するうえでのお手本となっていません。上記のような、前文を利用して改正の履歴だけでなく趣旨も記録するという独自方式は優れたもので、他マンションでも導入を検討する価値がある事例といえるでしょう。

(マンョン管理士/波形昭彦)



バナースペース

注釈 NOTE

注1: 建設省(当時)による管理規約の旧・標準(「中高層共同住宅標準管理規約」)は、1982年(昭和57年)に指針として公表され、翌年、区分所有法の大改正に伴い改訂されて以降、広く周知・普及が図られた。
 その後、マンション管理適正化法の制定などマンションを取り巻く情勢の変化を経て、国土交通省による新・標準(「マンション標準管理規約」)が2004年(平成16年)に公表され、管理組合が各マンションの実態に応じて管理規約を制定・変更する際の参考として位置づけられた。
 このとき、分譲の中高層共同住宅を指す法令用語として「マンション」が定着してきたことから、名称も「中高層共同住宅標準管理規約」から「マンション標準管理規約」に変更された。 

注2: 管理組合が管理規約を定める場合の根拠規定としては、区分所有法第3条と第30条が挙げられる。各条の全文は次のとおり。
 (区分所有者の団体)
第3条 区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる。一部の区分所有者のみの共用に供されるべきことが明らかな共用部分(以下「一部共用部分」という。)をそれらの区分所有者が管理するときも、同様とする。
 (規約事項)
第30条 建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項は、この法律に定めるもののほか、規約で定めることができる。

注3: 管理規約に前文を置かない場合は、根拠規定を目的規定(第1条)に追記することが多い。自治会など任意加入の会員から構成される団体と異なり、管理組合は区分所有法に基づく法定団体であること、また全ての区分所有者は加入手続き等の有無にかかわらず当然に組合員となることについて、規約で明記して周知徹底を図る狙いからと考えられる。
 標準管理規約に対する変更例は次のとおり。
【標準】
 (目的)
第1条 この規約は、○○マンションの管理又は使用に関する事項等について定めることにより、区分所有者の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保することを目的とする。
  ↓
【変更例】
 (目的)
第1条 この規約は、「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」という。)第3条及び第30条に基づき、○○マンションの管理又は使用に関する事項等について定めることにより、区分所有者の共同の利益を増進し、良好な住環境を確保することを目的とする。

筆者紹介 PROFILE

波形昭彦(なみかた・あきひこ)

マンション管理士。ぎょうせい、日経BP社、Time Inc. を経て、合資会社妙典企画を設立し代表に就任。首都圏マンション管理士会の本部広報委員、千葉県支部事務局長、市川市マンション管理組合連絡協議会事務局長などを歴任。現在、首都圏マンション管理士会城東支部・台東区マンション管理士会正会員。地域コミュニティの活性化を支援するコミュニティアドバイザーとして、ICT活用や電子自治体、コミュニティ形成関連の執筆・講演多数。著書に『あなたのマンションは狙われている!――安全・安心な暮らしのための防犯読本』(共著、同友館)ほか。