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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第33回>

滞納管理費等債権回収の軌跡(Part4)

2013/12/17

前回からの続き)

はじめに

第30回から続いたシリーズの最終回となります。

まず手続全体の流れを確認し、手続の最後の部分(⑧)について説明します。

手続全体の流れ(時系列)

平成23年7月 不動産の仮差押え(①)
平成23年9月 上記①の本案訴訟にあたる管理費等請求訴訟(②)
平成23年12月 上記②の訴訟の判決(債務名義)に基づく不動産強制競売申立(③)
平成24年2月 上記③の競売手続における配当要求(④)
平成24年12月 配当要求していない管理費等について、先取特権(区分所有法7条)の物上代位を根拠とし、債務者が第三債務者(国)に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の差押え(⑤)
平成25年1月 競売手続で償還を受けられない手続費用について、弁済費用(民法485条本文)支払請求権を被保全債権とし、債務者が第三債務者(国)に対して有する売却代金剰余金交付請求権(債権)の仮差押え(⑥)
平成25年2月 上記⑥の本案訴訟にあたる弁済費用請求訴訟(⑦)
平成25年10月 上記⑦の判決(債務名義)に基づく配当金交付の手続(供託金払渡請求)(⑧)

上記⑧の手続の概略


⑧ 債務名義に基づく配当金交付の手続(供託金払渡請求)

(1)配当金交付について

本件では、売却代金剰余金交付日の前に「差押え」と「仮差押え」が競合しているが、弁済金交付日が到来すると、第三債務者(国)は剰余金を供託所に供託した [注1]。

同年2月、執行裁判所は、(債権執行の)配当期日を同年3月某日と指定し [注2]、管理組合宛に配当期日呼出状及び計算書提出の催告書を送付した。

そこで、管理組合は、差押事件の債権計算書と仮差押事件の債権計算書の両方を裁判所に提出した。

同年3月、差押事件については配当が行われ、仮差押事件に関しては配当が留保された [注3]。

同年6月、仮差押事件の本案にあたる弁済費用請求事件について、仮執行宣言付きの判決が言い渡された。

同年7月、管理組合は上記判決につき執行文の付与を申し立てた。

その後、管理組合は、配当が留保されている分の配当金交付を求め、執行裁判所に対し、執行文付き判決正本及び送達証明書並びに上申書等を提出した。

そして、管理組合は、執行裁判所から(払渡を受けるべき供託金について)支払証明書の交付を受け、次に述べる担保金(供託金)の払渡請求と一緒に、供託所へ払渡請求を行うこととした。

(2)担保取消し(供託原因消滅)について

平成25年1月、管理組合は、債権仮差押事件に関する担保を供託している。

仮差押えの本案にあたる訴訟の判決は、平成25年7月に確定した。

そこで、管理組合は、裁判所に担保取消しの申立てを行うとともに供託原因消滅証明の申請をした[注4]。

なお、担保取消決定正本の債務者への送達が難儀したことから、供託原因消滅証明書の交付は同年10月となった。

(3)供託金払渡請求について

平成25年10月、管理組合は、上記(1)及び(2)の供託金について、供託所(地方法務局)に対し払渡請求を行った。

解説

仮差押債権者も、配当を受けるべき債権者として配当手続に参加することができます。しかし、仮差押債権者が現実に配当を受領するためには、本案訴訟で被保全債権が認容されたことを執行裁判所に対して証明しなければなりません。

そのため、管理組合は、平成25年7月に、仮差押事件に係る債権の配当金交付を求めることになりました。

実際の手続としては、執行文付き判決正本や送達証明書さらには郵便切手等を準備して、執行裁判所に対し、配当金を交付して欲しい旨の上申書を提出します。そして、執行裁判所から「払渡を受けるべき供託金」等の支払証明書の交付を受けて、今度は、供託所(法務局)に対し、同証明書や印鑑証明書を添付して、供託金払渡請求を行うことになります。

なお、先取特権の物上代位を根拠とする差押事件に係る債権については、平成25年3月に配当が実施されています。もちろん、実際の流れは、執行裁判所から支払証明書の交付を受けて、供託所(地方法務局)に対し、供託金払渡請求をし、その結果、供託所から金銭を受領するということになります。

さらに、管理組合は、仮差押事件に係る担保金(供託金)についても払渡請求をすることになります。この供託金払渡請求のためには、裁判所に対して担保取消しの申立てや供託原因消滅証明申請をして証明書の交付を受けた後に、供託所に対し供託金払渡請求をしなければなりません。

上記しただけでも3件の供託金払渡請求をすることになっています。したがって、それなりの労力は避けられません。仮に弁護士に委任していると、それなりの費用もかかるでしょう。そのようなこともあり、管理組合がこの種の手続を選択することは珍しいかもしれません。



バナースペース

注釈 NOTE

注1: 民事執行法156条について
 (第三債務者の供託)
第百五十六条 第三債務者は、差押えに係る金銭債権(差押命令により差し押さえられた金銭債権に限る。次項において同じ。)の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができる。
2 第三債務者は、次条第一項に規定する訴えの訴状の送達を受ける時までに、差押えに係る金銭債権のうち差し押さえられていない部分を超えて発せられた差押命令、差押処分又は仮差押命令の送達を受けたときはその債権の全額に相当する金銭を、配当要求があつた旨を記載した文書の送達を受けたときは差し押さえられた部分に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託しなければならない。
3 第三債務者は、前二項の規定による供託をしたときは、その事情を執行裁判所に届け出なければならない。

注2: 民事執行法166条について
 (配当等の実施)
第百六十六条 執行裁判所は、第百六十一条第六項において準用する第百九条に規定する場合のほか、次に掲げる場合には、配当等を実施しなければならない。
 一 第百五十六条第一項若しくは第二項又は第百五十七条第五項の規定による供託がされた場合
 二 売却命令による売却がされた場合
 三 第百六十三条第二項の規定により売得金が提出された場合
2 第八十四条、第八十五条及び第八十八条から第九十二条までの規定は、前項の規定により執行裁判所が実施する配当等の手続について準用する。

注3: 民事執行法166条2項が準用する91条1項2号について
 (配当等の額の供託)
第九十一条 配当等を受けるべき債権者の債権について次に掲げる事由があるときは、裁判所書記官は、その配当等の額に相当する金銭を供託しなければならない。
 一 停止条件付又は不確定期限付であるとき。
 二 仮差押債権者の債権であるとき。
 三 第三十九条第一項第七号又は第百八十三条第一項第六号に掲げる文書が提出されているとき。
 四 その債権に係る先取特権、質権又は抵当権(以下この項において「先取特権等」という。)の実行を一時禁止する裁判の正本が提出されているとき。
 五 その債権に係る先取特権等につき仮登記又は民事保全法第五十三条第二項 に規定する仮処分による仮登記がされたものであるとき。
 六 仮差押え又は執行停止に係る差押えの登記後に登記された先取特権等があるため配当額が定まらないとき。
 七 配当異議の訴えが提起されたとき。
2 裁判所書記官は、配当等の受領のために執行裁判所に出頭しなかつた債権者(知れていない抵当証券の所持人を含む。)に対する配当等の額に相当する金銭を供託しなければならない。

注4: 民事保全法4条2項が準用する民事訴訟法79条について
 (担保の取消し)
第七十九条 担保を立てた者が担保の事由が消滅したことを証明したときは、裁判所は、申立てにより、担保の取消しの決定をしなければならない。
2 担保を立てた者が担保の取消しについて担保権利者の同意を得たことを証明したときも、前項と同様とする。
3 訴訟の完結後、裁判所が、担保を立てた者の申立てにより、担保権利者に対し、一定の期間内にその権利を行使すべき旨を催告し、担保権利者がその行使をしないときは、担保の取消しについて担保権利者の同意があったものとみなす。
4 第一項及び第二項の規定による決定に対しては、即時抗告をすることができる。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。