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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第24回>

建物の一部が滅失した場合の復旧等について

2013/8/20

今回は、区分所有法61条[注1]について考えてみましょう。区分所有法61条は、建物の一部が滅失した場合の復旧等に関する規定です。

以下、区分所有法のことを単に「法」といいます。

はじめに

1 通常の共用部分の管理について

通常の共用部分の管理については、以下のように分類できます。

@「保存行為」・・・法18条1項但し書[注2
A「共用部分の管理」・・・法18条1項本文[注2
B「共用部分の変更」・・・法17条1項[注3

2 一部滅失への対処について

共用部分の一部が滅失してしまった場合、通常の管理として対処するには限界があります。そこで、法61条は、一部滅失に対する特別な対処について規定しています。

3 全部滅失への対処について

仮に建物が全部滅失した場合には、区分所有関係もなくなっていますので、区分所有法の適用はありません。基本的は民法が適用されます。

ただし、「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」が適用される余地はあります。ちなみに、同法は「大規模な火災、震災その他の災害により、その全部が滅失した区分所有建物の再建及びその敷地の売却、その一部が滅失した区分所有建物及びその敷地の売却並びに当該区分所有建物の取壊し等を容易にする特別の措置を講ずることにより、被災地の健全な復興に資することを目的」とした法律です。

法61条について

1 総論

「復旧」とは、滅失前の状態に回復(原状回復)することをいいます。

法61条1項[注1]は、「建物の価格の2分の1以下に相当する部分が滅失したとき」を前提とする規定です。このような滅失について小規模一部滅失と呼ぶこととします。

これに対して、建物の価格の2分の1超に相当する部分が滅失したときを大規模一部滅失と呼ぶこととします。

なお、ここでいう「建物の価格」とは建物全体の価格を指します。

抽象的に言えば、滅失前の建物全体の価格が20億円であったとして、一部滅失後の建物全体の価格が10億円以上(すなわち2分の1以下に相当する部分の滅失)であれば小規模一部滅失といえます。仮に、一部滅失後の建物全体の価格が10億円未満(すなわち2分の1超に相当する部分の滅失)であれば大規模一部滅失ということになります。

ちなみに、平成14年改正法によって、建替え決議の客観的要件(旧法62条1項参照)が撤廃されていますので、現行法のもとでは、老朽・損傷・一部滅失などとは無関係に建替え決議が可能です。

<旧法62条1項>

老朽、損傷、一部の滅失その他の事由により、建物の価額その他の事情に照らし、建物がその効用を維持し、又は回復するのに過分の費用を要するに至つたときは、集会において、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、建物の敷地に新たに主たる使用目的を同一とする建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。
<現行法62条1項>

集会においては、区分所有者及び議決権の各五分の四以上の多数で、建物を取り壊し、かつ、当該建物の敷地若しくはその一部の土地又は当該建物の敷地の全部若しくは一部を含む土地に新たに建物を建築する旨の決議(以下「建替え決議」という。)をすることができる。

2 小規模一部滅失の場合

(1)決議

小規模一部滅失の場合、「集会において、滅失した共用部分を復旧する旨の決議」をすることができます(法61条3項)。

ここでいう「決議」とは、法39条1項の決議(いわゆる普通決議)を指します[注4]。

(2)共用部分の復旧について

各区分所有者は、復旧決議や建替え決議がなされる前に単独で共用部分を復旧することができます。その場合、共用部分を復旧した者は、他の区分所有者に対し、復旧に要した金額を法14条[注5]に定める割合に応じて償還請求することが可能です(法61条2項)[注1]。

ただし、規約に別段の定めがあればそれによります(法61条4項)[注1]ので、例えば各区分所有者が単独で共用部分を復旧することを禁止する規約の定めも可能です。

(3)専有部分の復旧について

各区分所有者が自己の専有部分を復旧することは基本的に自由です。

したがって、専有部分を復旧することを禁止する規約の定めは、基本的に法的拘束力を有しないと解されます。

仮に当該専有部分の復旧行為が「区分所有者の共同の利益に反する行為」(法6条)[注6]に当たるのであれば、当該復旧行為の停止等の請求(法57条)[注7]が認められる余地もありますが、現実的にそのような請求が認められることは稀でしょう。

3 大規模一部滅失の場合

(1)決議

大規模一部滅失の場合には、「集会において、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で、滅失した共用部分を復旧する旨の決議」をすることができます(法61条5項)[注1]。

(2)共用部分の復旧について

大規模一部滅失の場合、区分所有法上、各区分所有者の単独復旧は認められていません。つまり、仮に各区分所有者が共用部分を復旧したとしても、法61条2項のような根拠に基づく償還請求は認められません。ただし、民法の規定を根拠とする請求が認められる余地はあるでしょう(民法702条、民法703条参照)。

共用部分を復旧する旨の決議があった場合、決議賛成者以外の区分所有者は、決議に賛成した区分所有者の全部又は一部(法61条7項)あるいは買取指定者(法61条8項)に対し、建物及びその敷地に関する権利の買取請求権を行使できます。(法61条7項〜11項、13項参照)[注1]。

また、大規模一部滅失の日から6月以内に復旧決議や建替え決議がなされない場合にも、各区分所有者は、他の区分所有者に対し、建物及びその敷地に関する権利の買取請求権を行使できます(法61条12項参照)[注1]。

(3)専有部分の復旧について

大規模一部滅失の場合も、各区分所有者が自己の専有部分を復旧することは基本的に自由であり、この点については、上記の小規模一部滅失の場合と同じです。

さいごに

法61条は「復旧」を前提としています。

仮に、「復旧」(原状回復)ではなく、「共用部分の変更」に当たる場合には、法17条[注3]の適用がありますので注意しましょう。

(弁護士/平松英樹)



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注釈 NOTE

注1: 区分所有法61条
(建物の一部が滅失した場合の復旧等)
第六十一条 建物の価格の二分の一以下に相当する部分が滅失したときは、各区分所有者は、滅失した共用部分及び自己の専有部分を復旧することができる。ただし、共用部分については、復旧の工事に着手するまでに第三項、次条第一項又は第七十条第一項の決議があつたときは、この限りでない。
2 前項の規定により共用部分を復旧した者は、他の区分所有者に対し、復旧に要した金額を第十四条に定める割合に応じて償還すべきことを請求することができる。
3 第一項本文に規定する場合には、集会において、滅失した共用部分を復旧する旨の決議をすることができる。
4 前三項の規定は、規約で別段の定めをすることを妨げない。
5 第一項本文に規定する場合を除いて、建物の一部が滅失したときは、集会において、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数で、滅失した共用部分を復旧する旨の決議をすることができる。
6 前項の決議をした集会の議事録には、その決議についての各区分所有者の賛否をも記載し、又は記録しなければならない。
7 第五項の決議があつた場合において、その決議の日から二週間を経過したときは、次項の場合を除き、その決議に賛成した区分所有者(その承継人を含む。以下この条において「決議賛成者」という。)以外の区分所有者は、決議賛成者の全部又は一部に対し、建物及びその敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができる。この場合において、その請求を受けた決議賛成者は、その請求の日から二月以内に、他の決議賛成者の全部又は一部に対し、決議賛成者以外の区分所有者を除いて算定した第十四条に定める割合に応じて当該建物及びその敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができる。
8 第五項の決議の日から二週間以内に、決議賛成者がその全員の合意により建物及びその敷地に関する権利を買い取ることができる者を指定し、かつ、その指定された者(以下この条において「買取指定者」という。)がその旨を決議賛成者以外の区分所有者に対して書面で通知したときは、その通知を受けた区分所有者は、買取指定者に対してのみ、前項前段に規定する請求をすることができる。
9 買取指定者が第七項前段に規定する請求に基づく売買の代金に係る債務の全部又は一部の弁済をしないときは、決議賛成者(買取指定者となつたものを除く。以下この項及び第十三項において同じ。)は、連帯してその債務の全部又は一部の弁済の責めに任ずる。ただし、決議賛成者が買取指定者に資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、この限りでない。
10 第五項の集会を招集した者(買取指定者の指定がされているときは、当該買取指定者)は、決議賛成者以外の区分所有者に対し、四月以上の期間を定めて、第七項前段に規定する請求をするか否かを確答すべき旨を書面で催告することができる。
11 前項に規定する催告を受けた区分所有者は、前項の規定により定められた期間を経過したときは、第七項前段に規定する請求をすることができない。
12 第五項に規定する場合において、建物の一部が滅失した日から六月以内に同項、次条第一項又は第七十条第一項の決議がないときは、各区分所有者は、他の区分所有者に対し、建物及びその敷地に関する権利を時価で買い取るべきことを請求することができる。
13 第二項、第七項、第八項及び前項の場合には、裁判所は、償還若しくは買取りの請求を受けた区分所有者、買取りの請求を受けた買取指定者又は第九項本文に規定する債務について履行の請求を受けた決議賛成者の請求により、償還金又は代金の支払につき相当の期限を許与することができる。

注2: 区分所有法18条(別紙参照)

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注3: 区分所有法17条(別紙参照)

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注4: 区分所有法39条(別紙参照)

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注5:区分所有法14条(別紙参照)

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注6: 区分所有法6条(別紙参照)

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注7: 区分所有法57条(別紙参照)

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筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。