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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第16回>

不動産執行における「予納金」について

2013/4/23

マンション管理組合関係者の中で「不動産競売の予納金は全額戻ってきます」とおっしゃる方が非常に多いのですが、次のようなことを理解されているのか心配になります。

1 予納金の使途(そもそも予納金は預託金ではありません)

2 手続費用償還の限界(手続費用償還額は配当原資となる売却代金を上回ることはありません)[注1][注2

3 無剰余取消制度(競売手続が取り消されてしまうと手続費用償還すらありません)

今回は、区分所有法59条[注3]の区分所有権等競売請求の確定判決に基づく不動産競売申立(先行事件が存在しない場合)を例に、上記1と2に焦点を当てて検討してみましょう[注4]。

はじめに(不動産競売申立ての際に必要となる書類等)

はじめに不動産競売申立ての際に必要となる書類等について確認しておきましょう。

不動産競売申立てに際しては、「申立書」以外に、次のような書類を準備する必要があります(あくまでも一例です)。

(1)建物の登記事項証明書
(2)土地の登記事項証明書
(3)固定資産評価証明書[注5
(4)公課証明書
(5)相手方の住民票(法人の場合は登記事項証明書)
(6)公図写し・地積測量図のコピー
(7)法務局備付けの建物図面のコピー

上記書類は、申立人(すなわち管理組合側)が準備しなければなりません。

上記書類を準備するだけで、少なくとも数千円の費用はかかるでしょう。

そして、申立人(管理組合側)は、「申立書」と上記書類(その他必要部数のコピー)を裁判所へ提出することになります[注6]。

(8)なお、申立書には収入印紙(4000円)を貼付します。
(9)また、差押登記のための登録免許税[注7]を裁判所に納めます。
(10)さらに、「予納金」[注8]を裁判所に納めることになるのです。

上記からお分かりのように、(1)から(9)までの費用は、予納金とは別に出費されています。ちなみに、これらの費用の一部は手続費用[注1]として認定されることになります。

予納金の使途と手続費用償還の限界

競売開始決定後は裁判所によって手続が進められていきます。

手続が進められていくためには各種費用が必要となります。

その費用に使われるために、予納金(以下、「裁判所保管金」といいます。)が存在します。

では、実際に裁判所保管金が何に使われるのか簡単に確認しておきましょう。例えば、次に掲げる費用が裁判所保管金から支出されることになります。

@ 開始決定がなされると裁判所書記官は差押えの登記を嘱託することになりますが(民事執行法48条)、その嘱託手続に要する費用。

A 競売開始決定正本については相手方に送達されることになりますが(民事執行法45条2項)、その送達費用。

B 当該物件(不動産)の抵当権者等に対しては裁判所から債権届出の催告書が送付されますが(民事執行法49条)、その送付費用。

C 当該物件(不動産)は執行官によって現況調査が行われますが(民事執行法57条)、その現況調査費用。

D 当該物件(不動産)は売却を実施するため(裁判所が選任する)評価人により評価されますが(民事執行法58条)、その評価料。

E 評価人の評価に基づき売却基準価額が決定すると、売却実施処分がなされますが(民事執行法64条)、その旨の通知や新聞紙等広告料。

F 例えば開札期日は売却実施の一環として執行官により主宰されますが(民事執行法64条3項参照)、その売却実施の手数料。

G 買受人が決定するとその人に裁判所書記官から代金納付期限が通知されますが、その通知費用。

H 買受人から代金が納付されると、配当等が行われることになりますが、その配当等期日に債権者や債務者を呼び出すための呼出状等送達費用。

以上のように、各種費用が裁判所保管金から支出されていきます。

通常は、最初に納めた予納金(裁判所保管金)で賄えますが、場合によっては不足することもあります。不足する場合は、予納金を追加することになります。

仮に、予納金(裁判所保管金)が60万円で、その保管金から支出された費用合計が50万円だったとすれば、残額は10万円となります。この残額(10万円)はもちろん予納金提出者(管理組合側)に還付されます。

裁判所保管金から支出された費用(上記の例でいえば50万円)は、本来、手続費用と認定されて申立人に償還されます[注1]。ただし、その原資は基本的に売却代金なのです[注2]。

そうすると、申立人が手続費用として償還を受ける金額は、配当原資となる売却代金を超えることはありません。

仮に売却代金(配当原資)が1万円[注9]だったとすれば、申立人(管理組合側)が償還を受ける金額の上限も1万円ということになります[注10]。

さいごに

あえて簡単に説明すると、予納金(裁判所保管金)から支出された総額以上の配当原資(売却代金)が存在しない限り、(裁判所から)予納金全額に満つる金員が戻ってくることはありません。

そのようなことから、「不動産競売の予納金は全額戻ってきます」という話には違和感があるのです。

なお、債務名義に基づく不動産強制競売申立や担保権(先取特権)実行としての担保不動産競売申立について上記説明は当てはまりません。さらに難しい話(説明)になりますので注意してください。

参考WEBページ
↓↓↓
http://www.emg-law.jp/Q&A/Q&A_II-29.html

(弁護士/平松英樹)



バナースペース

注釈 NOTE

注1: 手続費用とは、執行費用のうち総債権者の共通の利益のために支出されたと認められる共益費用のことをいいます。手続費用の認定は、基本的には裁判所が職権で行います。共益費用としての手続費用は、売却代金から最優先で償還されることになります。

注2: 返還されなかった保証が売却代金(配当原資)に組み入れられることもあります(民事執行法80
条1項、86条1項3号)。
【民事執行法第80条1項】
 買受人が代金を納付しないときは、売却許可決定は、その効力を失う。この場合においては、買受人は、第六十六条の規定により提供した保証の返還を請求することができない。
【民事執行法第66条】
 不動産の買受けの申出をしようとする者は、最高裁判所規則で定めるところにより、執行裁判所が定める額及び方法による保証を提供しなければならない。
【民事執行法第86条1項】
 売却代金は、次に掲げるものとする。
 一 不動産の代金
 二 第六十三条第二項第二号の規定により提供した保証のうち申出額から代金の額を控除した残額に相当するもの
 三 第八十条第一項後段の規定により買受人が返還を請求することができない保証

注3: 区分所有法59条は次のとおり。
(区分所有権の競売の請求)
第五十九条 第五十七条第一項に規定する場合において、第六条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、他の区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもつて、当該行為に係る区分所有者の区分所有権及び敷地利用権の競売を請求することができる。
2 第五十七条第三項の規定は前項の訴えの提起に、前条第二項及び第三項の規定は前項の決議に準用する。
3 第一項の規定による判決に基づく競売の申立ては、その判決が確定した日から六月を経過したときは、することができない。
4 前項の競売においては、競売を申し立てられた区分所有者又はその者の計算において買い受けようとする者は、買受けの申出をすることができない。

注4: 区分所有法59条に基づく競売においては、原則として無剰余取消の適用はありません(東京高裁平成16年5月20日決定参照)
【東京高裁平成16年5月20日決定より抜粋】
 「区分所有法59条に基づく競売においては、建物(区分所有権)の最低売却価額で手続費用を弁済することすらできないと認められる場合でない限り、売却を実施したとしても・・・民事執行法63条の規定の趣旨(無益執行の禁止及び優先債権者の保護)に反するものではなく、むしろ売却を実施する必要性があるというべきであるから、同条は適用されない(換言すれば、手続費用との関係でのみ同条が適用される)ものと解するのが相当である(なお、最低売却価額で手続費用を弁済する見込みがない場合であっても、競売の申立人がその不足分を負担すれば、なお、競売は実施すべきものと解される。)」

注5: 区分所有法59条に基づく競売(形式競売)の場合には、物件の評価額から「差押登記のための登録免許税」を算出します。ここでいう物件の評価額は固定資産評価額に基づくことになります。そのため固定資産評価証明書の提出が必要となります。

注6: 実際には、これらの他にも添付資料や添付郵券が必要となります(具体的事案や裁判所によって異なります)。

注7: 差押登記のための登録免許税は、物件の評価額の「1000分の4」程度になります。具体的には、物件の評価額の1000円未満を切り捨て、これに「1000分の4」を乗じて100円未満を切り捨てるという計算になります。
 仮に物件の評価額(土地建物の固定資産評価額合計)が1000万円となった場合、差押登記のための登録免許税は4万円となります。

注8: 東京地方裁判所の場合、形式競売の予納金の額は、物件の評価額に応じて以下のようになります。
2000万円未満
 ・・・60万円
2000万円以上5000万円未満
 ・・・100万円
5000万円以上1億円未満
 ・・・150万円
1億円以上
 ・・・200万円

注9: 区分所有法59条に基づく競売の場合、売却基準価額が1万円(買受可能価額8000円)となることも珍しくありません。

注10: 裁判所によっては、申立人(管理組合側)に、申出額(=手続費用の見込額を超える額)と買受可能価額との差額相当の保証提供を求めてくることがありますので、注意が必要です。ただ、いずれにしても、実質的には「最低売却価額で手続費用を弁済する見込みがない場合・・・競売の申立人がその不足分を負担」する(東京高裁平成16年5月20日決定参照)ということに変わりありません。

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。