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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第8回>

委任状の閲覧請求権?

2012/12/18

皆様よくご存知のとおり、区分所有法によれば、「規約」や集会「議事録」の保管者は、「利害関係人」の請求があったとき、正当な理由がある場合を除いて、この「閲覧」を拒んではなりません。
そして、区分所有者(組合員)は「利害関係人」に含まれます。
つまり、区分所有者(組合員)は、集会議事録の保管者に対し、集会議事録の閲覧を請求することができ、他方、保管者は、閲覧を拒む正当な理由がある場合を除いて、これに応じなければなりません(区分所有法42条5項、同法33条1項本文、同条2項、同法47条12項)[注1][注2][注3]。

では、委任状等の閲覧についてはどうでしょうか?
次のような事例に基づいて検討してみましょう。

(事例)

 マンション管理組合法人Yにおいて総会が開催され、その後、同総会の議事録が作成されて区分所有者全員の閲覧に供される状態に置かれた。
 Yの構成員である区分所有者Xは、同議事録に記載されていた出席者数や議決権数に疑問を持ち、Y側に対し、その裏付資料としての「出席者一覧表」や「委任状」の閲覧を求めた。
 これに対し、Y側は、「閲覧を認める根拠が存在しない」として、Xの求めに応じなかった。実際に、Yの規約にはこれらの閲覧に関する規定は存在しない。
 そこで、Xは、区分所有法42条を根拠として委任状等の閲覧を求める訴訟を提起した。

Xの主張について

まず、区分所有法上、「出席者一覧表」や「委任状」の閲覧を認める明文規定はありません。
区分所有法42条は「議事録」に関する規定であり、「委任状」の閲覧に関する規定ではありません。

ただし、集会議事録には、「区分所有者総数および総議決権数、出席区分所有者数および出席議決権数、書面または電磁的方法による議決権の行使があったときはその区分所有者数および議決権数、ならびに議案に対する賛成・反対それぞれの区分所有者数及び議決権数を明示する必要がある」とも言われています(「コンメンタールマンション区分所有法【第2版】」稻本洋之助・鎌野邦樹著(日本評論社、2004年)226頁)。

そこで、Xは、次のような主張をしたとしましょう。
(Xの主張)
@ 区分所有法42条は議事録の閲覧を規定するが、議事録の絶対的記載項目である出席者数や議決権について、その裏付資料まで閲覧権が及ぶと考えなければ閲覧請求の意味がないから、委任状について閲覧する権利がある。
A 「出席者一覧表」及び「決議の賛否数の集計表」について、議事録に記載された議決内容を検証する上で必要であり、これらの書類は議事録の添付資料であると考えており、被告組合は、区分所有法42条に基づき、原告に対し、閲覧させる義務がある。

Q はたしてこのような主張(根拠)に基づく請求が訴訟で認容されるでしょうか?

参考裁判例

上記のような事例において参考となる裁判例として、東京地裁平成21年10月20日判決・資料閲覧請求事件(判例集未登載)を紹介しておきましょう。この判決は、以下のような理由で、原告の請求を棄却しました。
ちなみに、同事件の控訴審である東京高裁平成22年4月6日判決(資料閲覧請求控訴事件)も原判決の判断を維持し、控訴人の控訴を棄却しました。

東京地裁平成21年10月20日判決の「判断」部分より抜粋

(1) 区分所有法42条5項、同法33条1項本文、同条2項、同法47条12項は、同法42条1項が集会の議事について議事録の作成義務を定めたのを受けて、保管者である理事に対し、利害関係人が議事録の閲覧請求権を有することを定めたものと解され、集会に際して提出された委任状等、議事録以外の文書について閲覧請求権を定めたものということはできない。したがって、同法42条5項等を根拠に、議事録以外の文書について、利害関係人に閲覧請求権があると認めることはできない。
 原告は、議事録の絶対的記載項目である出席者数や議決権について、その裏付資料まで閲覧権が及ぶと考えなければ閲覧請求の意味がないから、委任状について閲覧する権利があると主張するが、議事録と委任状とは作成者や作成趣旨が異なる文書であり、当然にそのようにいうことはできず、採用できない。

(2) また、原告は、「出席者の一覧表」及び「決議の賛否数の集計表」について、議事録に記載された議決内容を検証する上で必要であり、これらの書類は議事録の添付資料であるから、被告組合は、区分所有法42条に基づき、原告に対し、閲覧させる義務があると主張する。
 しかし、本件総会について、これらの資料が作成され、存在することを前提としても、本件総会の議事録の添付資料であるとか、本件議事録と一体となる文書であるとかの事情を認めるに足りる証拠はない。
 また・・・(1)で述べたとおり、議事録とは別に、このような書類について、原告が区分所有法42条5項等を根拠に、被告組合に対し、閲覧請求権を有するとは認められない。

(3) 以上からすると、原告の被告組合に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

さいごに(注意)

今回紹介した事例は、当該マンションの管理規約に委任状等閲覧に関する規定がない場合を前提としています。また、あくまでも、区分所有法42条を根拠とした請求について判断されたものです。
規約に定めがある場合や、委任状作成者ないし提出者からの閲覧請求について判断されたものではありません。

(弁護士/平松英樹)



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注釈 NOTE

注1: 区分所有法42条5項については、次の条文を参照。
(議事録)
第四十二条 集会の議事については、議長は、書面又は電磁的記録により、議事録を作成しなければならない。
2 議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、又は記録しなければならない。
3 前項の場合において、議事録が書面で作成されているときは、議長及び集会に出席した区分所有者の二人がこれに署名押印しなければならない。
4 第二項の場合において、議事録が電磁的記録で作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報については、議長及び集会に出席した区分所有者の二人が行う法務省令で定める署名押印に代わる措置を執らなければならない。
5 第三十三条の規定は、議事録について準用する。

注2: 区分所有法33条1項本文、同条2項については、次の条文を参照。
(規約の保管及び閲覧)
第三十三条 規約は、管理者が保管しなければならない。ただし、管理者がないときは、建物を使用している区分所有者又はその代理人で規約又は集会の決議で定めるものが保管しなければならない。
2 前項の規定により規約を保管する者は、利害関係人の請求があつたときは、正当な理由がある場合を除いて、規約の閲覧(規約が電磁的記録で作成されているときは、当該電磁的記録に記録された情報の内容を法務省令で定める方法により表示したものの当該規約の保管場所における閲覧)を拒んではならない。
3 規約の保管場所は、建物内の見やすい場所に掲示しなければならない。

注3: 区分所有法47条12項については、次の条文を参照。

注釈別紙はここをクリック!

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。