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弁護士平松英樹のマンション管理論

<連載第53回>

自動振替に基づく管理費等の入金管理上の注意点

2015/5/19

はじめに

「管理費等の徴収」に関しては、マンション標準管理規約(単棟型)第60条1項と同様の規定を置いている管理組合が多く存在します。

マンション標準管理規約(単棟型)第60条1項の規定は次のとおりです。

<管理規約第60条1項>

 管理組合は、第25条に定める管理費等及び第29条に定める使用料について、組合員が各自開設する預金口座から自動振替の方法により第62条に定める口座に受け入れることとし、当月分は前月の○日までに一括して徴収する。ただし、臨時に要する費用として特別に徴収する場合には、別に定めるところによる。

今回は、この規定と関連する下記質問を考えてみましょう。以下、「管理規約」とは、マンション標準管理規約(単棟型)と同じ内容のものを指します。

<質問①>

 管理組合が、管理費等長期滞納者から、管理規約60条1項に基づき管理費等を振替徴収した場合、その徴収金はどのように充当されるべきでしょうか。民法491条[注1]の規定に従って充当してよいでしょうか(最高裁昭和46年3月30日判決[注2]参照)。

<質問②>

 管理規約60条1項に基づく振替徴収によって、滞納管理費等債務全体について時効中断の効力が及ぶのでしょうか。

原則的結論

原則的な結論は以下のとおりです。

質問①について
管理規約60条1項の規定に従い、「第25条に定める管理費等及び第29条に定める使用料」の「当月分」に充当されます。原則として、民法491条の規定による充当はできません。

質問②について
「当月分」の管理費等及び使用料が自動振替(徴収)されたに過ぎませんので、債務全体に対する一部弁済(債務全体を承認した上での一部弁済)とはいえないでしょう。原則として、債務全体に対する時効中断の効力は生じません。

原則の解説

質問①について
管理規約60条1項に基づき「組合員が各自開設する預金口座から自動振替の方法により第62条[注3]に定める口座に受け入れ」られる金員は、「前月の○日までに」徴収されるべき「当月分」の「第25条[注4]に定める管理費等及び第29条[注5]に定める使用料」です。

管理規約に明確に規定されている以上、管理組合としては、かかる徴収金を「当月分」の管理費等及び使用料に充当する意思があり、もちろん組合員も「当月分」の管理費等及び使用料に充当する意思を有しています。

したがって、当事者間において、管理規約60条1項の定めに基づいて充当する旨の合意があるといえます。

充当合意があれば、その合意に従った充当がなされるので、民法491条の規定の適用はありません。

質問②について
そもそも一部弁済が時効中断の効力を有するのは、債務の一部弁済行為がその債務を承認(民法147条3号)[注6]しているといえるからです(最高裁昭和36年8月31日判決参照)。

ところで、管理規約60条1項に基づいて「当月分」の管理費等及び使用料が自動振替されたに過ぎない場合、通常、このような自動振替をもって、債務者(滞納者)が滞納管理費等債務全体を承認しているとはいえません。

そうすると、債務全体に対する時効中断の効力は生じないという結論になります。

例外について

次に、例外を考えてみましょう。

質問①について
(充当に関する例外)
もともと「当月分」の管理費等及び使用料に充当される根拠は、管理規約60条1項の定めに従う旨の合意です。そうすると、当事者(債権者と債務者)間において、これとは別の充当合意をすれば、その合意に従います。

例えば、滞納管理費等債務全体のうちの一番古い(弁済期が先に到来している)管理費等に充当する旨の合意があればそれに従います。

もちろん、既発生の遅延損害金から充当する旨の合意や、使用料(弁済期が先に到来しているもの)から充当する旨の合意もあり得るでしょう。

いずれにしても、当事者間の合意に従うことになります。

質問②について
(時効中断効に関する例外)
前述したように、一部弁済に時効中断効が認められる理由は、債務の一部弁済行為がその債務を承認しているといえるからです。

そうすると、債務者が、自動振替金を滞納管理費等債務全体のうちの一部弁済金とする意思を有していれば、債務者はその債務全体を承認しているといえます。

例えば、上に述べた滞納管理費等債務全体のうちの一番古い管理費等に充当する旨の合意、滞納管理費等債務全体に対する遅延損害金に充当する旨の合意、または滞納管理費等債務全体のうちの使用料(弁済期が先に到来しているもの)から充当する旨の合意に基づく弁済などは、滞納管理費等債務全体を承認した上での一部弁済といえます。

このような場合には、その債務全体について時効中断効が及ぶという結論になります。

さいごに

管理規約60条1項に関しては「管理規約」という文書(客観的証拠)が存在しています。

他方、例外的事実(合意等)に関してはどうでしょうか。

もし、管理組合が例外的事実を主張したいのであれば、その事実を立証する責任は管理組合にあります。

したがって、管理組合が例外的処理をしたいのであれば、管理組合として客観的証拠(書面等)を残しておくべきでしょう。

(弁護士/平松英樹)



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注釈 NOTE

注1: 民法491条
 (元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)
第四百九十一条 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。
2 第四百八十九条の規定は、前項の場合について準用する。

注2: 最高裁昭和46年3月30日第三小法廷判決より
 「・・・民法四九一条一項によれば、数個の債務について元本のほかに費用および利息(遅延損害金を含む。)を支払うべき場合において、その債務の全部を消滅させるに足りない給付をしたときは、費用、利息、元本の順序によりこれを充当すべきであるが、同条二項により、それら数個の債務の費用相互間、利息相互間、元本相互間における充当の方法について同法四八九条が準用される結果、数個の債務についての費用、利息は各債務の元本より先に充当されるべきものとなるのである(大審院大正二年(オ)第五六〇号同四年二月一七日判決、民録二一輯一一五頁、最高裁判所第二小法廷昭和二七年(オ)第七〇〇号同二九年七月一六日判決、民集八巻七号一三五〇頁参照)。」

注3: マンション標準管理規約(単棟型)第62条
 (預金口座の開設)
第62条 管理組合は、会計業務を遂行するため、管理組合の預金口座を開設するものとする。

注4: マンション標準管理規約(単棟型)第25条
 (管理費等)
第25条 区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
 一 管理費
 二 修繕積立金
2 管理費等の額については、各区分所有者の共用部分の共有持分に応じて算出するものとする。

注5: マンション標準管理規約(単棟型)第29条
 (使用料)
第29条 駐車場使用料その他の敷地及び共用部分等に係る使用料(以下「使用料」という。)は、それらの管理に要する費用に充てるほか、修繕積立金として積み立てる。

注6: 民法147条
 (時効の中断事由)
第百四十七条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
 一 請求
 二 差押え、仮差押え又は仮処分
 三 承認

筆者紹介 PROFILE

平松英樹(ひらまつ・ひでき)

弁護士、マンション管理士。1968年(昭和43年)生まれ、1991年(平成3年)年早稲田大学政治経済学部卒業。不動産管理会社勤務を経て弁護士登録(東京弁護士会)。EMG総合法律事務所(東京都中央区京橋1丁目14番5号土屋ビル4階)、首都圏マンション管理士会などに所属。マンション管理、不動産取引・賃貸借(借地借家)問題を中心とした不動産法務を専門とし、マンション管理、不動産販売・賃貸管理、建築請負会社等の顧問先に対するリーガルサービスに定評がある。実務担当者を対象とする講演、執筆等の実績多数。著書に『わかりやすいマンション管理組合・管理会社のためのマンション標準管理規約改正の概要とポイント』(住宅新報社)ほか。